内容説明
【内容目次】
簡牘釈文の文字異同をめぐって 〔池田雄一〕
二年律令・奏讞書―文字異同
二年律令・奏讞書―一字索引
竹簡掲載頁一覧
あとがき/索 引
本書は、湖北省江陵県(現在の荊州市)の張家山二四七号漢墓より発掘された簡牘史料のうち、『二年律令』と『奏著書』とについて、中国で複数公表された釈文に対する「文字異同」と「一字索引」とを収録した工具書である。
この張家山漢簡の法制関係簡牘は、①『文物』一九九三年第八期および一九九五年第三期の二回に分割して『奏著書』の釈文および原簡写真の一部が掲載され、約二〇年の時を経て②二〇〇一年一一月に全文および原簡の白黒写真版が刊行された。その後③二〇〇六年に釈文修訂本、翌④二〇〇七年には彭浩・陳偉・工藤元男三氏によって法制関係簡牘の原簡を赤外線で再撮影して新たに釈文し直したものが刊行された。
現在のところ張家山漢簡法制関係簡牘は、三種の『二年律令』釈文、四種の『奏著書』釈文が公表されている。この三種あるいは四種に及ぶ釈文の位置付けであるが、それぞれの釈文は、原簡の経年による変化に併せて、これまでの研究の進展をも反映する側面が少なくなく、いずれの釈文に対しても、その文字異同に注意を払う必要がある。また、比較的通行している二〇〇六年の釈文修訂本は、文字異同の根拠が明示されていない部分がある。このため『二年律令』・『奏著書』を研究する場合には、それぞれの釈文を並べ比較対照する煩瑣な作業が必要となる。
本書は張家山漢簡の『二年律令』及び『奏著書』すべての各種釈文を全文併記し、それぞれの字形とその異同を通覧対比することが一目で可能となっている。併せて本書の「一字索引」は、この各種釈文全ての文字がその対象となっている。各種釈文を併記したことで、字形の異同だけではなく、これまで見過ごされていた句読点の異同も本書で確認することが可能となっている。この句読点の異同は、文意とも関わり、重要な問題を含む。
本書はまた、『二年律令』および『奏著書』の「竹簡掲載頁一覧」をも収録している。
近年多くの金石・封泥・簡牘史料等に対し、台湾中央研究院歴史語言研究所文物圖象研究室資料庫で、一字索引が提供されているが、張家山漢簡については、未だその一部で、『二年律令』は未だ収録されていない。
インターネット技術やフォントの制約もあって、数種に及ぶ釈文全文字に対する「一字検索」は、非常に困難である。この意味で、本書の「一字索引」は、『二年律令』および『奏著書』の各種全ての釈文に対応しており、現在、唯一各種釈文全文の一字検索が可能となっている。
さらに「竹簡掲載頁一覧」は、本書の竹簡掲載頁と各注釈書の釈文掲載頁および二〇〇一年に出版された白黒写真版の掲載頁、二〇〇七年に出版された赤外線写真版の掲載頁を一覧表示したもので、簡牘の出典をたどる際に非常に利便性が高い。
陸続と出土する簡牘史料では、張家山漢簡を含め、複数の釈文が提示される場合がある。その場合、煩瑣ではあるが、複数釈文中の一種のみに依拠していては問題が残りかねない。本書は、この意味で、二年律令・奏著書の複数種ある釈文の全てが、容易に活用できるよう組み立てられており、張家山漢簡研究必須の工具書となる。