目次
一 安史の乱と初期藩鎮
1 安史の乱と藩鎮の内地列置/2 藩鎮の権力構造
二 九世紀初めの改革と中期藩鎮
1 九世紀初めの藩鎮対策/2 貴族官僚節度使と藩鎮の動き
三 唐末五代の藩鎮
1 藩鎮の再編/2 藩鎮と在地勢力/3 王朝権力の藩鎮介入
第一部 律令兵制の崩壊と在地社会
第一章 府兵制の崩壊と新兵種――前半期唐朝支配の崩壊に関する若干の考察をふくめて
一 均田制支配の矛盾と崩壊 二 新兵種の成立 三 新兵種の特質と村落共同体の動向
四 在地勢力の擡頭 五 村落共同体の崩壊と国家 六 募兵制の成立
第二章 彍騎について
一 州県管掌と番上勤務 二 兵員の母体 三 兵員の出身地域 四 召募か、徴兵か
附――天宝以後の彍騎
第三章 長征健児制成立の前提
一 長征健児制の成立 二 健児・兵募から長征健児へ 三 長征健児の母体としての客戸
第二部 藩鎮の権力構造
第一章 唐五代の仮父子的結合の性格――主として藩帥的支配権力との関連において
一 概 観 二 集団型仮子――仮子の一つの存在形態
三 唐末五代の仮子――他の存在形態・個人型 1 出自/2 性格――二つの型
第二章 唐末五代の仮父子的結合における姓名と年齢
一 姓 名 二 年 齢
第三章 鉄券授受現象からみた君臣関係について――唐朝・五代を中心として
一 鉄券の起源・合符制 1 起源/2 合符制
二 誓 約 性 1 君主の誓約/2 受領臣下の意識
三 鉄券授受の時期 1 王朝建設期と鉄券賜与の制度化/2 唐・五代
第四章 君臣間における鉄券誓約の内容について――唐朝・五代を中心として
一 鉄券の受領資格と特権 二 刑法上の特典――恕死 三 刑法上の特典――常刑 四 特典の限定条件 五 国法と鉄券誓約 六 明朝の場合
附章 「鉄券」補考
第三部 唐末五代の政治と社会
第一章 朱玫の乱
一 朱玫とその乱 二 乱の歴史的意義
第二章 唐末の土豪的在地勢力について――四川の韋君靖の場合
はじめに――貴族政治から藩鎮自立体制へ
一 韋君靖の経歴と四川の状況 二 韋君靖権力の構造 三 自衛団成員と在地性
四 東川藩鎮との関係
第四部 律令制と東アジア世界
第一章 逸文からみた令についての若干の考察
一 官品令と職員令 二 『太平御覧』所引の唐令逸文
第二章 曹魏の詔と令
一 詔 と 令 二 詔・令の形式 三 著令詔・令
第三章 七、八世紀の東アジア世界
一 東アジア世界と律令制 二 律令国家群の諸相 三 律令国家群の二面性
附 録
一 唐における律令制の変質
1 律令的人民把握/2 律令制の破綻(1)/3 律令制の破綻(2)
4 むすびにかえて――村落共同体の変質
二 唐の衰亡
1 唐の世界帝国的性格の後退/2 唐の変容
3 兵乱から農民反乱へ――唐の滅亡と東アジア世界の変貌
後 記(關尾史郎)
語彙索引
内容説明
【本書より】(抜粋)
本書は、二〇〇〇年九月八日に逝去された上智大学名誉教授、栗原益男先生が生前に公表された論稿から、主要な十六篇を選び、編まれたものである。
応召されて戦傷を受け、一九四六年に復員した後も肋膜炎や肺結核に罹患されて静養を余儀なくされた先生が、唐末五代の藩鎮の権力構造に関する最初の成果を世に問うたのは、比較的遅く一九五三年のことである。しかしその後、十年ほどのあいだに、藩鎮の権力構造をはじめ、唐末五代の政治過程や在地社会の動向に関わる成果を陸続と公表されていった。本書の第二部と第三部におさめられた諸論稿がこれにあたる。やがて一九六〇年代にはいると、研究の主たる対象を、藩鎮を生みだした律令支配体制の崩壊過程に移された。第一部におさめた論稿がこれである。いずれも、兵制がタイトルになっているが、先生のご関心が、一つの支配体制を崩壊に導いた基層社会の変質にあったことが理解される。そのために、敦煌文書の読解にも取り組まれた。第一部から第三部までのこうした成果を総括する、唐後半期から五代に至る政治社会史をまとめた論稿を、序章に配した。ここには、復員後の先生が、なぜ、そしてどのように唐末五代期の研究に取り組まれたのか、が率直に述べられており、本書の序章としてふさわしいと判断したためである。
一九七〇年代以降の先生は、後に会長も務められることになる唐代史研究会の活動と深く関わりながら、東アジア世界論にも積極的に発言されるようになる。律令国家群の成立は、唐国内における律令支配体制の破綻と辺境藩鎮の登場と時期的に重なりあい、唐から世界帝国的な性格を失わしめることになったとする。このように、先生の東アジア世界論は、律令国家群という視点を特徴とするが、さらにその後、令の個々の条文にも目を向けられ、その成果を公にされた。これらの論稿は、本書全体のタイトルとはいささかそぐわないかもしれないが、晩年の先生がもっとも関心を寄せておられた分野であることを考慮して、第四部として収録することにした。先生は、本書の第一部から第四部を構成するような実証的な論稿を発表されるかたわら、これらの内容を平易に説いた著書や概説もいくつかものされた。本書には、このなかから、やはり晩年に近い時期に書かれた概説的な論稿を二篇選んで、附録としておさめた。(關尾史郎先生の後記より)