目次
第一部 中国・韓国の木簡
木簡使用の変遷と意味……………………………………………………………………………………角谷常子
文書行政における常套句…………………………………………………………………………………冨谷 至
古代東アジアにおける付札の展開………………………………………………………………………鷹取祐司
木簡の行方――唐代木簡の存否を考えるための覚書―─……………………………………………藤田高夫
穀物の貸与と還納をめぐる文書行政システム一斑
――東アジア古文書学の起点としての長沙呉簡――……………………………………………關尾史郎
韓国出土木簡と東アジア世界論――『論語』木簡を中心に――……………………………………李 成市
第二部 日本の木簡
日本古代木簡の視覚機能…………………………………………………………………………………市 大樹
荷札木簡に見える地名表記の多様性……………………………………………………………………舘野和己
考課・選叙の木簡と儀式…………………………………………………………………………………寺崎保広
書写技術の伝播と日本文字文化の基層…………………………………………………………………馬場 基
墨書のある木製品とその機能――東アジア木簡学の確立のために――……………………………渡辺晃宏
歌木簡――文学と考古学の交差点――……………………………………………ジョシュア・フライドマン
あとがき(角谷常子)/執筆者一覧
内容説明
【はじめに】より(抜粋)
本研究は、「日本木簡学」・「韓国木簡学」・「中国木簡学」という、いわば国別に完結する木簡学ではなく、日・中・韓が同じ土俵で議論できる木簡学という意味での「東アジア木簡学」をめざしたものである。古くから相互交流のあった日本・韓国・中国三カ国の影響関係と各国の独自性を明らかにしようとする時、三カ国の共通項である漢字、文書行政そして木簡は有効な切り口となり得る。特に木簡は、文献では窺えない貴重な情報、文字文化の諸相を伝える資料であるだけでなく、中国と日本では数十万単位の豊富な出土例があるからである。しかし、その木簡を中心に比較研究をやろうとすると、大きな壁にぶつかる。時期的懸隔である。木簡使用のピークは中国では秦漢時代、即ち紀元前三世紀から紀元後三世紀、日本は七~八世紀、韓国は六~七世紀である。そのため、時期的に近くて類似点も多く、かつ出土例も増しつつある韓国木簡と日本木簡とは親和性が高く、比較研究や学術交流も活発に行われているのに対して、中国木簡との比較研究――日本・韓国木簡のルーツ、あるいは参照資料としての比較ではない――は低調である。ではなぜ時代的懸隔が中国木簡との比較研究を阻むのか。最も大きな原因は、秦漢時代の木簡が書写用紙のない木簡の時代の木簡であるのに対して、韓国や日本のそれが紙木併用時代の木簡であることである。つまり紙の存在によって木簡の位置づけあるいは役割が違うため、類似点がないのである。本書所収の論考はその格闘の結果である。
そこには視覚効果、象徴性、人的関係、統治理念、音声世界、文字文化伝播の多様性、筆写技術など、さまざまな視点・論点が示されている。一国の木簡学のための研究ではなく、他地域を意識し、他地域に向けて投げかけたものである。その意識は必ずや読者に伝わるであろう。