内容説明
【はしがき】より
中国史上最初の統一王朝として大陸に君臨した秦王朝は短命に終わったものの、楚漢抗争を経て再び統一を果たした劉邦によって建国された漢王朝は概ね二百年の長きに渡って統治を全うし得た。王莽による簒奪と、それを経た王莽末期の混乱は、期間こそ短かったとは言え、前漢という中国において安定した帝国的統一が継続した後を襲った最初の混乱期であったことだけは間違いない。劉秀によって再建された後漢とは、そうした混乱を収拾した結果として再び中央集権的統一国家として存立したものなのであって、戦国史や秦・前漢史には比すべくもないのかもしれないが、古代国家の統治機構の形成・歴史的変遷を考えていく場合に、研究上の充分な対象となり得るのであって、示唆深い知見を与えてくれる時代であるに相違ない。従来の中国古代史研究にあって、後漢を考察する場合には、この視点に拠ることが必ずしも重視されていなかったのではないだろうか。
【内容目次】
序 章 戦後日本の中国古代国家史研究―後漢時代史研究の視点から―
第一節 戦後中国古代史学の出発と成熟
一 戦後歴史学の出発と中国古代史研究
二 後漢豪族連合政権論
三 中国古代国家形成論の展開
第二節 国家・豪族・小農民と「共同体」
―六〇年代以降の学説展開と後漢時代史―
一 国家構造と豪族
二 「共同体論争」の展開
三 「共同体論争」以降の学説展開
第三節 近年の後漢時代史研究
一 狩野直禎氏の所説に関して
二 渡邉義浩氏の所説に関して
三 九〇年代の後漢時代史研究の展開
四 東晋次氏の所説に関して
第四節 本書の課題と方法
第Ⅰ部 後漢の成立と漢代国家統治の展開
第一章 後漢建国に至る政治過程の特質と郡県制
第一節 後漢成立期の政治的動向に関する学説史
第二節 後漢政権の確立過程―劉秀と河北―
一 劉秀と更始政権
二 劉秀政権原基部分の成立
三 河北における劉秀政権の形成と展開
第三節 両漢交替期諸自立勢力の興亡と郡県制的国家統治機構
一 『後漢書』 列伝二に立伝された人物群を指導者とする勢力
二 隗囂・公孫述の勢力
三 『後漢書』 に専伝を持つ他の人物を指導者とする勢力
四 『後漢書』 に専伝を持たない人物を指導者とする勢力
第二章 漢代における郡県制の展開過程
第一節 前漢における郡県制の展開についての学説史
第二節 前漢における救荒・勧農等諸政策の展開と郡の機能
一 高祖~景帝期
二 武帝~宣帝期
三 元帝~平帝期
第三節 後漢における救荒・勧農等諸政策の展開と郡・州
第四節 漢代における郡県制的国家統治の展開と郡・州
おわりに ―第Ⅱ部への展望―
第Ⅱ部 後漢における国家統治の構造と特質
第一章 漢代における州・刺史制度の成立とその展開
第一節 前漢における州・刺史制度の創設と展開
一 州・刺史制度の開始と設置当初の職掌
二 宣帝期までの刺史
三 元帝・成帝期の刺史
四 前漢成帝改制前までの刺史の実情
五 前漢成帝期の改制とその史的意義
第二節 後漢の刺史の実態
一 監察官としての職務
二 刺史と郡太守との関係の後漢的特質
三 刺史と軍事活動との関わり
四 行政官としての後漢の刺史
第三節 後漢の刺史と「州牧」の記憶
第二章 国家統治機構としての漢代の州
第一節 統治機構としての州の整備過程―属吏と治所―
一 州の属吏の整備
二 前漢の州の治所の存否
三 後漢の州の治所の特質
第二節 後漢における州
一 国政の運営上における州
二 後漢の州における境界・経済圏
三 曹操の九州制施行とその背景
第三章 州の機構の在地社会への浸透
第一節 亭を巡る学説史
第二節 新出出土史料に見える亭
一 江陵張家山二四七号前漢墓出土竹簡群に見える亭
二 尹湾漢墓簡牘に見える亭
第三節 国家統治機構における亭の位置
一 軍事施設としての亭
二 後漢の国家統治機構における亭の位置
第四章 後漢国家統治機構における州の位置の特質
―諸侯王国との関わりから―
第一節 漢代の諸侯王列侯を巡る学説史
第二節 後漢の諸侯王と列侯
一 相続法と抑損策について
二 諸侯王列侯封建の展開と特質
第三節 侯王国の分布から見た後漢の国制上の特質
第四節 後漢の国制における州の位置
一 「州牧」と後漢の「刺史」―渡辺説への疑問―
二 「州牧」か「刺史」か
三 後漢建国期における諸侯王制の整備と州
終 章 国家統治の観点からみた中国古代史における後漢時代
参考文献一覧・英文目次・中文目次・中文要旨・索引(研究者人名・引用史料・事項〈歴史的人名を含む〉