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汲古叢書 83 宋代中國科擧社會の研究

汲古叢書 83 宋代中國科擧社會の研究

王朝の交替を超え伝統社会体制を再生産させた「科挙社会」の実態に迫る!

著者 近藤一成
ジャンル 東洋史(アジア) > 宋元
シリーズ 汲古叢書
出版年月日 2009/02/18
ISBN 9784762925825
判型・ページ数 A5・568ページ
定価 13,200円(本体12,000円+税)
在庫 在庫あり
 

内容説明

【序論より】

 本書は、唐末から五代、宋にかけて大きく変容した中国社会を、士―庶という中国史に一貫する支配―被支配観念を手がかりに考察し、二十世紀初頭の辛亥革命まで続いた伝統王朝約一千年間の体制再生産構造の解明に寄与することを最終の目標とする。しかしこの大きな課題に答えることは、この一書のみでは当然不可能である。それ故、王朝の体制再生産の鍵としての科挙に注目し、宋代における科社会・科挙文化の形成と展開のごく一部を明らかにすること、これが本書の当面の目的である。

本書は、筆者が過去に著した論考から関係論文を抽出し、Ⅲ部に分け改めて科挙社会の形成と展開を考察するものである。中央政府の施策や改革の顛末を扱うⅠ部は国制篇として、主に北宋中央政府の科挙政策を検討する。五代十国の分裂時代を終息させ、文治政治に舵を切った宋の太祖・太宗の下で科挙が主要入仕経路となって以降、あるべき文治政治にふさわしい官僚を選ぶにはどのような方法があるか、またいかにして公正公平な試験を行うかという理念と技術の両面にわたる議論が起こり、とくに前者は次々と改革が実施されては頓挫した。そのなかでとくに、慶暦、熙寧、崇寧の改革を中心に考察し、一般には姦臣として悪評高い蔡京の改革がそれらの集大成であり、結果的には失敗したが、以降の科挙社会定着の契機となったことを論証し、その社会構造を解明する。

Ⅱ部の地域篇は、中央の科挙政策に対応する地方の動きを、地域士人社会の形成の問題として考察する。始めに南宋後半期に進士合格者を激増させた浙東明州を例に、地域士人社会の形成に科挙の果たした役割を検討し、その具体相を黄震、王應麟という後世浙東学派の祖と目される学者官僚に焦点を当てて探った。また形成された地域士人社会が、自らの形成の物語を紡ぎだすことを検証し、地域の歴史像は複雑な過程をへて後世に伝承されることを述べた。一方、地域の多様性は科挙の実施過程にも反映し、その例として四川類省試を取り上げ論じた。さらに地域士人社会の形成は、紆余曲折をへながらも道学の普及に関連し、また士大夫の属する地域アイデンティティー確立にも密接に係わることを指摘する。

Ⅲ部では、科挙によって出現した士大夫官僚について考察し、その代表ともいえる蘇軾を取り上げる。大詩人・文豪として中国史上でも屈指の人気を誇る蘇軾の正式な肩書きは官僚である。蘇軾は宋代以降の士大夫文化の顕現者として受け入れられ祖述されてゆく。科挙文化の諸様相を蘇軾を具体例として検討することで、科挙社会は生身の人間の姿をとり生き生きとわれわれの前に現れてくる。

【内容目次】

序 論

Ⅰ部 国制篇 宋代の科挙学校制度と文人官僚

 第一章 宋初の国子監・大学について

   一 太学と四門学

   二 宋初の国子監

   三 解額と国子監

   四 胡瑗と大学

 第二章 「慶暦の治」小考

   一 危機の顕現

   二 條陳十事について

   三 慶暦新政と財政問題

 第三章 王安石の科挙改革をめぐって

   一 貢挙新制(試経義採用・試経義と科場・諸科廃止と五路対策)

   二 三経新義編纂

 第四章 蔡京の科挙・学校政策

   一 蔡京と三舎法

   二 天下三舎法の実施

   三 天下三舎法の廃止

 第五章 南宋初期の王安石評価について

   一 高宗の経術主義

   二 高宗と安石批判

   三 実録修訂

   四 進士科試題

   五 従祀問題

 第六章 「紹興十八年同年小録」三題

   一 五甲末等徐履

   二 山陰陸氏

   三 朱熹の本貫

Ⅱ部 地域篇 宋代明州慶元府の士人社会を中心に

 第一章 南宋地域社会の科挙と儒学―明州慶元府の場合

   一 明州慶元府と科挙

   二 王應麟と黄震

 第二章 鄞縣知事王安石と明州士人社会

   一 知鄞縣王安石

   二 慶暦五先生の出現

   三 王安石の残像

 第三章 宋末元初湖州呉興の士人社会

   一 科挙合格者数からみた南宋の湖州

   二 趙孟頫と周密―鵲華秋色図をめぐって

   三 楊載題跋をめぐって

 第四章 王安石撰墓誌を読む―地域、人脈、党争―

   一 安石撰墓誌の概略

   二 安石撰墓誌からみる王氏一族

   三 墓誌の依頼、執筆そして読み手

   四 墓誌銘からみた党争

 第五章 南宋四川の類省試からみた地域の問題

   一 何耕の場合

   二 『鶴山先生大全文集』墓誌銘にみる四川士人

   三 南宋四川の科挙と地域性

 第六章 宋代の士大夫と社会―黄榦における礼の世界と判語の世界

   一 黄榦略伝

   二 礼の世界

   三 判語の世界

Ⅲ部 個人篇 文人官僚蘇東坡

 第一章 東坡應挙考

   一 開封府解試と眉州解試

   二 本貫取解と寄應取解

   三 眉州貢挙と蘇家・程家

 第二章 張方平「文安先生墓表」と辨姦論

   一 偽作論の問題点

   二 墓表執筆の時期

   三 蘇家の事情

   四 張方平と王安石

 第三章 東坡の犯罪―『烏臺詩案』の基礎的考察―

   一 『烏臺詩案』の史料的性格

   二 弾劾と処分

 第四章 東坡「黄州寒食詩巻」と宋代士大夫

   一 湖南題跋をめぐって

   二 雅州巌道の張氏

   三 蜀州江原の張氏

   四 南宋の善頌堂

 第五章 知杭州蘇軾の治績―宋代文人官僚政策考―

  上 その救荒策 

    一 元祐四年秋から五年まで 

    二 元祐五年夏から六年春まで

    三 弾劾・弁護・交遊

  下 その対高麗策

    一 高麗僧一行への対応

    二 元祐編敕の改定

    三 明州・泉州商人・高麗

    四 市舶司設置と泉州商人

 第六章 西園雅集考―宋代文人伝説の誕生―

  上 西園雅集と米芾

    一 雅集への疑問

    二 米芾西園雅集図記と十六人について

    三 元祐二年の米芾について

    四 米芾図記について

  下 西園雅集図と東坡評価

    一 再び西園雅集図及び記について

    二 李公麟「述古図」について

    三 述古図と雅集図

    四 北宋徽宗朝の東坡評価

 結 論

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