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杜甫の詩的葛藤と社会意識

杜甫の詩的葛藤と社会意識

◎杜甫論に新たな視点を提示した画期的な「杜詩学」なる

著者 谷口 眞由美
ジャンル 中国古典(文学)
中国古典(文学) > 唐宋元
出版年月日 2013/02/20
ISBN 9784762965005
判型・ページ数 A5・340ページ
定価 11,000円(本体10,000円+税)
在庫 在庫あり
 

目次

序    佐藤 保        
 序論 詩的葛藤の中の杜甫
 第一編 心性と創作――杜甫の詩的葛藤と自己認識――
  第一章 「狂」について       第二章 表現手段としての「戲」
  第三章 自己認識としての「拙」   第四章 詩語「潦倒」にみる表現の重層性
 第二編 詩語の変革――文学表現における試行――
  第一章 「菊」のイメージ――六朝以前の「菊」と杜甫の「菊」――
  第二章 杜甫における「風塵」のイメージ
 第三編 社会意識と社会批判詩――内乱の中での詩的創造――
  第一章 華州司功参軍時代の杜甫――「乾元元年華州試進士策問五首」にみる問題意識――
  第二章 房琯事件と杜甫の社会意識  第三章 社会批判詩の焦点としての「三吏三別」
 結 語――杜甫が拓いた地平――
 あとがき・参考文献・初出一覧・付表 「杜甫簡略年表」・索引

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内容説明

【序(佐藤 保 先生)】より(抜粋)

本書にまとめられた谷口さんの杜甫研究の前提は、杜甫を「様々な矛盾・葛藤の中から独自の表現を生み出していった詩人としてとらえ」(序論)ることであり、彼の生涯を「葛藤」の連続ととらえ、「葛藤」をキーワードとして杜甫の創作の由来と実体をあらためて検討しようとしたものである。谷口さんによれば、杜甫の「葛藤」は三類に分類できるという。すなわち、第一は「儒家」を自認する杜甫自身の生き方に関わる葛藤、第二は伝統的な詩的イメージや詩語の変革に関する葛藤、そして第三は社会的矛盾に直面しての葛藤である。さらに、それらがすべて詩人の心の内面における葛藤であるのに対して、実際の創作においては内なる葛藤を言葉として表現するためにさらなる葛藤を生み出す、と谷口さんは指摘する。

第一編では、自己の生き方を「狂」で表現する杜甫の自己認識の、生涯を通じての変遷と特徴の分析を中心に、「戲」・「拙」・「潦倒」といった詩語の杜甫独自の意味内容を明らかにする。すなわち、自己への葛藤が語られている部分である。第二編で取り上げられているのは「菊」と「風塵」のイメージである。杜甫が、唐以前からの両者のイメージの流れを踏まえたうえで、現実に即した新たなイメージの展開を試み(試行し)て葛藤する様相を述べる。表現における葛藤を明らかにする部分である。第三編は、いわゆる「房琯事件」の真相究明と杜甫の社会詩との関連を論じるものである。「房琯事件」とは、宰相の房琯が政治的な対立から粛宗に罷免され、房琯を弁護した杜甫もまた罪に問われた一連の事件をさしている。従来あまり詳しくは論じられてこなかったこの事件が、実は安史の乱の収拾をめぐる政治路線・政策の対立によるものであることを、谷口さんは「乾元元年華州試進士策問五首」をはじめ「奉謝口勅放三司推問状」・「祭故相国清河房公文」等の散文作品をつぶさに検討して、解明する。すなわち、軍備の増強によって反乱を抑え込もうとする粛宗を中心とする政治集団の方針と、民衆の生活を第一に重視すべしとする房琯の主張との対立が事件の根本的な理由であった、と結論づける。言うまでもなく、杜甫は房琯の主張こそ政治本来のありようと考えたから房琯を弁護したのであるが、現実的には却って処罰を受けてしまい、理想と現実のギャップに葛藤を余儀なくされ、それが杜甫の社会詩の原点とも言うべき「三吏三別」を生み出したと、谷口さんは新しい見解を提示する。具体的な問題と事例に即した杜甫の「社会意識」の解析は、きわめて説得的である。

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