目次
第一部 延慶本(応永書写本)本文考
第一章 咸陽宮描写記事(巻四) 第二章 願立説話(巻一)
第三章 延慶書写本と応永書写本の間(巻一)第四章 延慶書写本と応永書写本の間(巻一、巻四)
第二部 平家物語の古態性と延慶本
第一章 平家物語の古態性をめぐる試論――「大庭早馬」を例として――
第二章 延慶本の書写と「異本」 第三章 延慶本巻七と源平盛衰記の間
第四章 延慶本巻八と源平盛衰記の間 第五章 延慶本巻十と源平盛衰記の間
第三部 平家物語の改編と物語性
第一章 延慶本の頼政説話の改編 第二章 延慶本の重衡関東下向記事の改編と宴曲の享受
第三章 忠度辞世の和歌「行き暮れて」再考 第四章 征夷大将軍任官をめぐる物語
第四部 覚一本本文考
第一章 伝本分類の再構築 第二章 伝本の様相からうかがう本文改訂
第三章 本文溯行の試み――巻四「厳島御幸」「還御」を手がかりに――
第四章 葉子本の位置
第五部 周辺作品と平家物語
第一章 『平家公達草紙』再考 第二章 平家物語と周辺諸作品との交響
第三章 『建礼門院右京大夫集』から平家物語へ
第四章 平家物語生成と情報 その一 北陸宮と嵯峨孫王 その二「よみ人しらず」への思い
第五章 藤原成親の妻子たち
付 章 観音の御変化は白馬に現せさせ給とかや
第六部 歴史資料と平家物語
第一章 『看聞日記』に見える平家享受 その一 地神経と琵琶法師 その二 多面的な平家享受
第二章 頼朝の征夷大将軍任官をめぐって――『三槐荒涼抜書要』の翻刻と紹介――
おわりに 初出一覧/あとがき/索引
内容説明
平家物語研究は多方面にわたり、現在では作品そのものの分析よりもむしろ、作品外縁との関連に関心が向けられている。だが、その基盤となる平家物語自体の究明は完結したわけではない。
平家物語の大きな特徴のひとつである多くの諸本の存在はかつて大きな関心を呼び、特に延慶本を中心に、諸本論が営々と積み上げられてきた。しかし、読み本系と語り本系との前後関係や諸本相互の関係など、いまだ解明できていないことの方が多い。
本書は、延慶本と覚一本という、読み本系と語り本系の代表的な二種の本文について再検討を試みるものである。延慶本の本文を解剖し、平家物語の古態をもう一度考え直し、平家物語の本文が流動・変容していく様を追うとともに、覚一本についてもその系統論を再検証し、一方系諸本の中での覚一本の位置を再定義し、一方系諸本の流動にも注意を促す。さらに本文系統を見直したところから改めて諸本の記述を分析し、平家物語の描く諸場面を考察し、平家物語が成立していく時代を見据えながら、作品を取り巻く文学環境・社会環境も視野に入れ、様々な側面を考えていく。