目次
序 文 …………………………………………………………………………… 吉尾 寛
第一部 中国史の全体構造の理解に向けて
中国史における「文と武」、「官と賊」、「漢人と少数民族」の間 ……………… 小林一美
民衆運動から見る中国史の特質――唐代以前―― ………………………… 葭森健介
民衆反乱と王朝交替の循環構造
――元末以後の華北交界地区の宗教反乱を中心に―― …………………… 佐藤公彦
近年における民衆運動史研究の動向
――世界史的観点から中国民衆反乱史研究を考える―― ………………… 甘利弘樹
關于中國古代民眾群體暴動事件的幾點淺見 ………………………………… 南 炳文
江南に“封建”有りしや?
―― 一九三○年代上海郊区の地籍図から看る―― ……………………… 濱島敦俊
第二部 〈主体〉への新たな視点
秦末の抵抗運動 ………………………………………………………………… 柴田 昇
東晋・南朝の民衆運動と水上交通――南康の営民と鵃舟了船の越人―― …… 榎本あゆち
十九―二十世紀における浙江沿海・台湾海峡の海盗 …………………… 松浦 章
臺灣近50年對於清朝動亂問題研究之分析 ……………………………… 卞 鳳奎
秘密結社と「アジア主義」―─近代日本の中国認識をめぐって―─ ……… 山田 賢
第三部 王朝交替の局面と基層社会
唐五代期における「逃げ城」について――民衆運動の一側面―― ……… 伊藤宏明
元明交替と国子学政策の継承についての覚書 ……………………………… 渡 昌弘
地域特點與民眾群體暴動的關係――以劉六・劉七起義為中心―― ……… 李 小林
明代嘉靖朝江西・廣東交界的民眾倡亂與地方統治
――以趙用賢〈先大夫行述〉為中心的討論―― …………………………… 唐 立宗
明末流賊劫掠與河南地方社會發展的阻斷
――兼及特別時期地方政府和士紳群體的危機應對―― …………………… 牛 建強
広東凌十八蜂起とその影響について ………………………………………… 菊池秀明
第四部 実地調査の可能性と意義
北宋・方臘の乱の史蹟調査紀要 ……………………………………………… 戸田裕司
旧羅旁地方調査記録――ヤオ族の痕跡を求めて―― …………………… 井上 徹
民衆反乱史研究とフィールドワーク
――明末清初福建省寧化県における黄通の抗租反乱に即して―― ……… 森 正夫
乾隆年間の福建寧化県における長関抗租について
――新史料二種の紹介を中心に―― ………………………………………… 三木 聰
謝氏族譜と地籍史料についての覚え書き―─福建省寧化県の事例から―― …… 稲田清一
清代刑科題本と乾隆十年(一七四五)山西大同府天鎮県閙賑案 ………… 堀地 明
「寨」をめぐる景観についての覚書
――捻軍の乱における安徽省潁州府太和県を例にして―― ……………… 吉尾 寛
あとがき ………………………………………………………………………… 都築晶子
執筆者紹介/中文目次/英文目次
附録DVD(実地調査を行った主要な史跡ならびに史料の画像)
内容説明
【序文より】(抜粋)
本書は、文部科学省科学研究費補助金による共同研究「日本・中国・台湾の研究者による中国の民衆運動の史実集積と動態分析」(基盤研究(A)二○○七~一○年)の成果の一部である。本研究は、保坂智編『近世義民年表』(吉川弘文館 二○○四年)等に代表される日本の「義民」研究、「一揆」研究をふまえた小林一美氏からの示唆を受けて着想し、日本・中国・台湾の研究の中で、中国民衆運動の史実がどれほどまで掌握できているか―とりわけ基層社会に立ち入ってどれほど掌握できているか、この基本問題についての見通しを、テキストデータのみならず画像データにももとづいて共有することを目的としたものである。
《研究の目的と方法》
(ⅰ)秦末から清末にいたる中国民衆運動の史実の情報を文献調査、実地調査によって網羅的に集積する。とくに、中国民衆運動研究に関する日本・中国・台湾の従前の方法・成果においては、基層社会に視点を据えてどれほどの量と質の史実を掌握できているのか、また、今後その拡大の可能性はどのようにあるのか―この問題に一定の見通しをもつ。本研究は、それらの諸情報を通時的に検討することを通して、民衆運動の歴史的動態の特質について実証的な解明の手がかりを見出し、今後共有できる分析視点を新たに見出すことを試みる。
(ⅱ)さらに、運動地点の実地調査を行うことを通して、①過去の関連する諸情報が現在までその地域社会にどのように伝えられているのか、②事実と伝承が現在の農民の生活等にいかなる影響を及ぼしているかを考察する。そして、具体的対象と方法は、参画者の研究業績をふまえて。次のように設定された。
(ⅲ) 史実を集積する民衆運動あるいは地方暴動は、『中国民衆叛乱史』の成果をふまえて以下を対象とした:陳勝・呉広の乱、緑林・赤眉の乱、黄巾の乱・五斗米道教国、孫恩・盧循の乱、大乗教の乱、隋末唐初の諸叛乱、裘甫の乱、龐勛の乱、黄巣の乱(以上は正史の記事を中心)。宋代以降については、零細な史料が多いため、本科研のメンバーの業績に照らして、以下を選定した:方臘の乱、王小波・李順の乱、元末の紅巾の乱、明代(河南等)の地方反乱、李自成の乱、奴変、江浙地区の搶米・民変・抗租、福建・黄通の抗租反乱、福建・江西省境の「土豪」の反乱、広東・福建・江西・湖南等の山寇、広東・広西省の少数民族等の反乱、太平天国および同時期の西南の少数民族反乱、魯西白蓮教反乱、安徽等の捻軍の乱、山東・河北・安徽の義和団運動、民国期の秘密結社、台湾等の海賊。
(ⅳ)史実は、一つの地域社会(府・州・県、より基層に近い図・都・里・甲等)に残る民衆運動あるいは地方暴動に関するものと定めた。その情報は、テキストとともに、史跡等に関する画像を以て構成されるものとし、それらを一つのデータベースに集積することとした。
本研究は、『中国民衆叛乱史』前掲の業績をふまえつつも、史実のデジタル化(テキスト・画像)とその 集積量―未だ全面公開に至っていないが―、さらには方法(国際共同研究、フィールドワーク)において、『中国民衆叛乱史』とは異なる実績を残し、また新たな研究課題を見出すことができたと考える。
総じて、今日の中国民衆運動史(民衆反乱史)研究には新たに取り組むべき現実的課題があるように思われる。それは、主体の行動様式や顕彰行為等の史実を基層社会の歴史より抽出し、かつそれらを「民衆的伝統文化」として括って明示すること、そして、そのことを通して、農民の生きる場の豊かなありかた、かかる場と国家の関係、それにもとづく現状の歴史的意味、現状を打開する糸口等々を些かなりとも示すことではないかと考える。