目次
序説一 日本漢学史における五山版
一 中世以前の日本漢学
二 五山版の誕生
三 五山版の隆昌
四 中世後期の地方版
序説二 日本漢学史における辞書、類書
一 中世以前の受容と再成
二 中世前期の受容と再成
三 中世後期における辞書、類書の流伝
第一章 『古今韻会挙要』版本考
第二章 『韻府群玉』版本考
第一節 原本系統 附 新増説本文の成立について
第二節 新増説文本系統
第三節 増続会通本系統
第三章 『氏族大全』版本考
総説 中世日本漢学における韻類書の受容
図版(70頁)・跋
検字表/著録伝本表(551種)/印文索引(1093種)・人名索引・書名索引
内容説明
本書は中国で成立した韻類書で日本の中世に広く流布した『古今韻会挙要』、『韻府群玉』、『氏族大全』の三書を取り上げ、その現存諸本を網羅的に調査し、版本学的方法を以てその本文系統と諸本の展開とを明らかにし、さらに三書の日本に於ける受容の実態を探って、日本漢学史の中に位置づけたものである。ここに言う韻類書とは韻書の性格と類書のそれとを併せ持った書籍の謂いで、著者による造語である。韻類書は本来漢語を母語とする者にとって便宜のある書であり、和音・和訓を以て漢語を受容した日本人にこれに親しむ素地があったとは思われない。それにも拘わらず、韻類書が日本の中世にこれほどまでに受容されたのは一体何故か。本書はこの素朴な疑問に端を発するものであったように思われるが、その解明には厖大な数の韻類書伝本の書誌学的調査を必要とした。その網羅的とも言える伝本調査で明らかになった事柄は極めて多いが、特に次の三点を大きな研究成果として挙げることができる。
第一に、本書に取り上げた三書について、その伝本の複雑な継承関係を明らかにした点である。特に注目すべきは、日本の五山版の底本を特定したこと、その五山版が単なる中国刊本の覆刻ではなく、出版に際して行なわれた本文校訂に中世漢学の成果が用いられたことを立証したことである。第二に、伝本の継承関係を明らかにする過程で、幾つかの重大な新知見を提示した点である。第三に、中世日本の知識人が韻類書を本格的な読書の対象とし、知識の網羅性を重視した所に当時の漢学の特質があることを明示した点である。